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アンチエイジング医療最前線


日本抗加齢医学会雑誌 2018年12月1日発行 第14巻 第6号 P20~25掲載文 田中孝執筆原著

アンチエイジング医療を始めて15年~これからのアンチエイジング医療は~
From the first 15 years of anti-aging medicine to the future anti-aging medicine

田中消化器科クリニック 田中孝
Summary
 I met anti - aging medicine in 2002 and have practiced anti - aging medicine at clinic for over 15 years since then. I would like to introduce the present condition of the anti-aging examinations at our clinic and the details of the medical treatment, and I would like to mention the future prospects about anti-aging world.

アンチエイジング医療をはじめて15年

 田中消化器科クリニックは静岡市住宅街に位置し、年間約7000件の内視鏡検査を行っている消化器疾患専門保険診療クリニックである。現在では消化器疾患のみならず、認知症を含む生活習慣病患者さんも多く診察している。このように当院は本来消化器系早期がんを発見することを使命としてきたが、その延長はがん予防であり、がん予防を積極的に展開すると本質的にアンチエイジング医療に到達する。患者さんのニーズはがん予防であり成人病予防であり、さらに最近では認知症予防が重要になってきた。これら生活・栄養・運動療法の基本は共通であり、アンチエイジング医療そのものである。患者さんに日々の生活の中で“こうすれば病気の予防になります”と訴えてもなかなか聞く耳をもたれないが、“こうするとアンチエイジングになりますよ”と説明すると、“よしやるぞ”と意気込みが入る。このようにアンチエイジングという言葉の響きそのものに“カリスマ性”があり、アンチエイジング医療を進めることがすべての疾病予防に繋がっていくと確信している。(写真1)に当院でアンチエイジングドックや点滴療法を実施しているホリスティックフロアーを紹介する。

写真1.ホリスティックフロア:ドック検査室と点滴療法室

 著者は東邦大学宮地幸隆教授の紹介で2002年開催の日本抗加齢研究会に参加したことがきっかけで、日本抗加齢研究会(当時の呼称)に入会した。宮地先生は東大第3内科を経て広島大学助教授に就任され、その後静岡県立総合病院核医学部部長を経て東邦大学教授に就任された。その当時ペプチドホルモンレセプター、ステロイドホルモン研究分野では日本の第一人者であった。宮地教授は日本抗加齢研究会開設時より理事に就任され、著者も宮地教授の推薦で早くから評議員に就任させていただいた。著者は2015年に臨床医として初めて理事に推薦され、当時の坪田理事長の発案で臨床研究促進委員会を発足させた。この会は臨床医会員の先生方がより積極的に抗加齢医学会に参画できるチャンスを作り、多くの臨床医会員の増加を図ることを目的に設立された。現在は、2017年から理事に就任された満岡先生とともに二人三脚で運営にあたっている。(図1)にその臨床医支援事業をまとめたが、まだまだ道半ばである。現在、総会でのスキルアップセミナー、総会終了後の抗加齢栄養療法指導講習会、東京、大阪で開催される臨床研究促進委員会主催1日講習会などを企画している。臨床医の皆さんのご意見もいただきながら、より役立つ企画を創出したいと願っている。

図1

当院のアンチエイジング診療の実際

 アンチエイジングドックは午前中に臨床検査技師主体で検査を実施している。また医師(院長)が通常診療のない土曜日や木曜日午後にドック内容を詳細に解説し、生活・栄養・運動・サプリメント指導も行っている。さらに多くの患者さんに対して、通常診療でもアンチエイジングドックの検査内容を生活習慣病治療に活用し、指導を継続している。
 院内ではアンチエイジングドックの宣伝は積極的に行わず、ホームページや院内パンフレットを見て検査を希望された患者さんを対象に実施している。このように一般診療部門のペースを混乱させることのない範囲で、新しいアンチエイジング医療を試み、かつ一般診療にも還元する体制をとっている(文献1,2)。
 当院で実施しているアンチエイジングドックの概要を示す(表1)。抗加齢問診表は米井らの推奨している日本抗加齢医学会問診表を使用し、体力計測は各医療機関で簡単に実施できる握力・スクワット時間などをメニューとした。検査は基本項目とオプション項目から構成され、用途に応じて組み合わせ、変更が可能となっている。これらの検査項目はアンチエイジングドックのみでなく、一般診療でも使用可能な項目である。基本検体検査はSRLと日本老化制御研究所に依頼し、オプション検査はそれぞれの専門検査機関に依頼している。(表1)には基本セットとオプションメニューを示した。酸化度・抗酸化能力を詳細に検討する目的では日本老化制御研究所の開発した酸化ストレスプロファイル(OSP)検査を使用している(文献3)。またMCI検査は筑波大学グループによって開発され、βアミロイドを排除する物質数種を測定し早期認知症発見を目的としている(文献4)。ミルテル検査は広島大学田原教授によって開発された検査で、テロメア長、G-テール長の計測と超早期がんや早期認知症発見の指標となるμRNAの計測を行っている。(文献5,6)また本年度から検査会社“Mykinso Pro”に依頼して、患者さんの腸内細菌叢遺伝子解析も行っている。

表1

 アンチエイジングドックを行うことによって多くの病態が極めて初期の段階から把握可能となる(表2)。

表2.アンチエイジングドックより発見される病態

 このような病態を正確に把握した後、患者さんにできるだけわかりやすく時間をかけてその内容を説明している。さらに表3にまとめた生活・栄養・運動指導を行う。このアンチエイジング指導はメタボリック症候群対策、成人病予防、がん予防のすべてに通じ、通常診療も同一原則で臨んでいる。

表3.アンチエイジング指導の原則

 一方、糖尿病、高血圧、骨粗鬆症関連の薬剤の多く(メトフォルミン、活性型ビタミンD3、亜鉛製剤、SERM他)にはプレオトロピックな効果が見られ、これらの薬剤もできるだけ適切に使用し、原疾患の治療とともに随伴するメタボリック症候群発生や臓器障害進行を防止すべきと考えている。また問診と血中ホルモン値から、ホルモン補充療法の対象と判断される患者さんには、補充療法の実施も考慮している(文献7)。
 

生活・栄養・サプリメント指導

 データを基に生活指導を行う場合、抽象的に「バランスの良い食事と運動を」と指導しても実効性は疑わしい。患者さんの生活スタイルについての理解を深めた上で、できるだけ具体的で、実行や継続が可能な指導を行うことが望まれる。規則正しく、栄養バランスの取れた食事を摂るように勧めることが、栄養指導のあるべき姿であることは論を待たないが、仕事の都合など様々な理由で、理想的な食生活の継続が難しい場合が見受けられる。生活習慣病のリスクが高い食生活では、糖質・タンパク質・脂質を過剰に摂取する一方で、ビタミンやミネラルの微量栄養素が不足する傾向がみられる。また、半世紀前に比べ、食材に含まれる微量栄養素の量が減少していることも考慮すると、栄養面の現実的な生活習慣改善として、サプリメント(栄養補助食品)の活用も選択肢となる。
 自発的にサプリメントを摂取している方も多く、当院の調査でも、8割位の患者さんがどう役立つかをきちんと理解しないままサプリメントを服用している。これは、市場に多くの製品が溢れ、無責任な情報によって消費者が混乱していることの表れと考えられる。消費者は魅力的なキャッチフレーズの製品を選びがちであり、優先順位の高い五大栄養素への配慮が不十分なまま、特殊なサプリメントを摂取することも多い。医師の立場からは、不必要なサプリメントは飲ませない指導とともに、エビデンスの明確な信頼できるサプリメントを選べるように、情報を積極的に提供すべきである(図2)(文献8,9)。

図2.サプリメントに対する勘違い

 栄養指導を行うに当たっては、三大栄養素のバランスが取れた食生活を促すとともに、必要な患者さんへの第一選択として、微量栄養素がきちんと配合されたいわゆるマルチビタミン・ミネラルと呼ばれるサプリメントの摂取を推奨するのが正しい方向性といえる。またドック検査の結果、酸化ストレスが亢進している方に対しては、抗酸化栄養素(ベータ・カロテン、ビタミンE、ビタミンC、セレニウム、コエンザイムQ10、カテキンなど)を追加することが有効である。
 当然のことながらマルチビタミン・ミネラルや、抗酸化栄養素であればどの製品でも良いというわけではなく、信頼できる製品を見分けるためのポイントについても指導することが大切である。パッケージの成分や原材料の表記をきちんと読み、価格を考慮すれば、おおよそサプリメントの性能は推察できる。また、折に触れて医師自身もサプリメントを試しておけば、より有効なアドバイスが可能となる。
 このような指導を受けることによって、患者さんは十分な理解をもって生活スタイルをよりアンチエイジング的に改善することができる。また次回のドックにおけるデータの改善を目標にすることにとって、より前向きなアンチエイジング生活に取り込むことができるであろう。当院のサプリメント投与の原則を(表4)に提示した。

表4.サプリメント投与の原則

 平成19年から患者さん固有のスーパーアンチエイジングドックデータを基礎として、「フルオーダーサプリメント」設計の監修も行っている。従来から「問診表」等に基づいて、既成のサプリメントを組み合わせ、分包して提供するサービスは存在するが、血液、尿、毛髪から採取したデータを基に、素材選択のレベルからサプリメントを個人別に最適設計することは初めての試みである。フルオーダーサプリメントの欠点は、価格が高額なことにあるが、今後ノウハウが蓄積され、より多くの方が利用しやすい価格が実現されることを期待したい。各種の検査マーカーによって体のコンディションを把握し、最適な栄養補給を設計することは、栄養指導の究極の姿である。このように患者さんのニーズに積極的に応えていくことが、新しいアンチエイジング医療の創造につながると確信している。

これからのアンチエイジング医療、先制医療と個別化栄養療法

 前回の医学会総会テーマは先制医療であった。各人固有の疾病傾向を事前に確認し、疾病発症前に各個人に最適な疾病予防措置を行う医療である(文献10)。がん疾患、認知症など各人固有の疾病傾向をゲノムレベルで調査し、各個人に適切な間隔で対象臓器を絞り込んだ検診を行う時代が訪れる。新時代の健診ではがんは超早期に診断され、内視鏡等簡便な治療処置で完治が期待される。またがんが発見されてもそのゲノムや細胞マーカーを検査することによって抗がん剤等の最適治療プログラムが事前に示される(図3)。
 今回の当院のアンチエイジングドックのメニューにもMCI検査、μRNA検査など新時代の到来を予期される項目が含まれている。特にμRNA検査は将来の健診のあり方が画期的に変わる可能性を秘めている。今後前向き試験のデータが発表されることが楽しみである。将来のアンチエイジングドックもこのような先制医療を考慮したメニューに変化していくと考えられる。

図3.疾病発症メカニズム
日本の未来を拓く医療 治療医療から先制医療へ 井村裕夫編集を改変 2018,9

 現在、当院では通常診療、アンチエイジング医療にかかわらず、各患者さん個別の栄養指導に注目している。患者さんの現在の疾病状態を的確に見極めるとともに、患者さん自身の個別のアンチエイジング(個別の予防医学)データも加味した栄養指導を行い、将来予想される疾病を的確に防止することを目的としている。患者さんにカロリー、栄養バランス、好き嫌いも含めた個別の食事調査を行い、実施可能な栄養指導を提供し栄養バランスを適切化し、病気になりにくい健康な体つくりを行っている。
 京都大学和田洋巳名誉教授は京都の“からすま和田クリニック”で多くの末期がん患者に独特の食事療法を実施され、長期生存に寄与されている。その治療の根幹はがんが生存しにくい免疫力あふれた心身を作ることである。本会会員の皆様も和田先生の著書を読まれることをお勧めしたい。医療の根本原則をその著より学ぶことができる(文献11,12)。

 最後に、“臨床医のアンチエイジング医療最前線”の企画が会員の皆様の少しでもお役に立つことを願って、この稿の筆を置きたい。
 
●文献
1.田中孝.アンチエイジングクリニック訪問、田中消化器科クリニック、日本抗加齢医学会雑誌;2006.p.94-96.
2.田中孝他.一般開業医のアンチエイジング診療、アンチエイジングと生活習慣、クリニカルプラクチス26(7);2007.p.551-557.
3.Ochi H, et al.The JalCA-Genox Oxidative Stress Profile - An overview on the profiling technique in the oxidative stress assessment and management. Biofactors13;2000.p.195-203.
4.Uchida, K., et al. Alzheimers Dement (Amst). 2015 Jun; 1(2): 270–280.
5.田原栄俊.テロメアGテール長とμRNA を用いた膵癌の予防、バイオマーカー開発と治療戦略.胆と膵Vol.37(9);2016.p.783-790. 
6.Hidetoshi Tahara et al.G-tail telomere HPA: simple measurement of human single-stranded telomeric overhangs NATURE METHODS Vol.2 No.11;2005.p.829-831.
7.田中孝,永田善子.メラトニン、DHEAの処方、Modern Physician26;2006.p. 551-557.
8.田村忠司.サプリメントの正体.東洋経済新報社;2013.
9.田村忠司.「これ」を食べればサプリメントはいらない.東洋経済新報社;2015.
10.井村祐夫全体編集.日本の未来を拓く医療 治療医学から先制医療へ.医学書出版診断と治療社;2012.
11.和田洋巳.がんとエントロピー、NTT出版:2011
12.浜口玲央、長谷川充子、和田洋巳.がんに負けないこころとからだのつくりかた、ソフトカバー、WIKOM研究所:2015